編集部おすすめお正月にはどうして餅を食べるの?お年玉は餅だった? もっと知って楽しもうお正月!
マイちゃん
- まもなく迎える新年。お正月には、初詣、おせち料理、お雑煮、そしてお年玉など、楽しみな行事が盛りだくさんです。
それぞれの行事にはそれを行う深い理由があるわけですが、米菓が大好きな私たちはお餅を食べることにフォーカス。お正月にお餅を食べる理由や、元はお餅だったというお年玉の意味について和文化研究家の三浦康子先生に教えてもらうことにしました。
お餅は新年の魂をいただくために食べた
マイちゃん
- 先生、よろしくお願いします。
まずは、お正月にお餅を食べる理由について教えてください。
三浦先生
-
はい。みなさんはお餅の原料が米(もち米)ということはご存知ですよね。
日本では文化形成の根源に稲作があり、米は神聖な作物とされてきました。それを搗き(つき)固めたお餅には米のパワーが凝縮されているので、昔からお餅を食べると力がつくと考えられてきました。「力うどん」など、お餅が入っている料理に「力」という言葉が入るのはこういった理由があるんです。お餅には、その年の豊作や幸せを司る年神様の魂が宿ると考えられてきました。そもそもお正月とは年神様をお迎えし、幸福をもたらしてくださるよう祈願する行事。お正月にお餅を食べることには、そこに宿った年神様の魂を頂戴し、新年の魂を授けていただくという意味があります。ここでいう魂は生きる力ということなので、年が明けると年神様から新年を生きる力をいただくわけです。
昔は年齢を「かぞえ」でカウントする数え年でしたから、元旦に誰もが一斉に歳をとりました。これは年神様からいただいた魂の数を数えれば年齢になるからです。人は生まれたときから魂をもっていますから、数え年では生まれた時が1歳なのもここに理由があります。
お年玉はお餅だった!
マイちゃん
- お餅を食べることを通して、神様のパワーを取り込んでいたわけですね。
三浦先生
-
そうなんです。だからお雑煮のお餅はたくさん食べるといいと言われているんですよ。
年神様から魂を分けていただくことを「御魂分け(みたまわけ)」といいます。年神様の魂は餅を丸くかたどった餅玉に宿ります。年神様の依りつく鏡餅が丸い形をしているのはそのためなんですね。
お正月を迎えると、その餅を家長が家族に分け与えました。これが御年魂(おとしだま)で、お年玉のルーツです。本来はお餅だったお年玉ですが、今ではお金をお子様に渡すのが当たり前になりました。時代の流れでお金偏重の社会に変わり、人々の価値観が変化したためです。
お子様が喜ぶお金も結構ですが、私としては本来のお年玉の意味が伝わるよう、お餅もぜひ渡してみてほしいと思います。まだお餅を上手に食べられないお子様には、米菓をあげてみるのも面白いかもしれませんね。
マイちゃん
- お年玉に込められた本来の意味は薄らいでいってしまったんですね。他のお正月の行事の意味も随分変わってきているのかもしれません。
三浦先生
そうですね。けれど、今でもおせち料理やお雑煮は祝い箸で食べるご家庭が多いのではないでしょうか。
慶事に使う祝い箸は上下がなく、両端で食べ物を挟める両口箸になっていますよね。これは、片方を神様用を考え、神様と共に食事をすることを意味しています。これを「神人共食(しんじんきょうしょく)」といい、神様とのつながりを深めることで幸福を願っているんです。
お正月の物事に込められた意味を知ると、やりがいがありますよ。
角餅? 丸餅? お雑煮のお餅の形には意味がある
マイちゃん
- そういえば我が家のお雑煮のお餅は角餅なんですけど、これは年神様が宿る丸餅とは異なりますよね?
三浦先生
-
地域の食文化が色濃く反映されているお雑煮には、非常に多くのバリエーションがありますよね。
大きく分けて、公家文化が残る関西地方のお雑煮は丸餅を用いることが多く、江戸の武家文化が残る関東地方は角餅が多い傾向があります。年神様の魂が宿る丸餅が本来の形ですが、餅を手で丸めると寒い地方では餅の中に気泡が入り、餅が割れやすくなります。
そこで、関東では圧力をかけて気泡を押し出すのし餅を用いるようになりました。のし餅を切り分けると当然角型になるので、関東では角餅が多いんです。また、角餅をお雑煮にするときは、焼いて入れることが多いはずです。お餅を焼くと膨らんで角が取れます。そうすると形が丸に近づくので、本来の意味を持つことになります。
このような知恵は参勤交代に伴って広がったと考えられていますが、お雑煮は土地々々でアレンジされ、全国各地で多様になっていきました。
マイちゃん
- 我が家では偏食のあった家族のために、先祖代々伝わってきたお雑煮を随分アレンジしてしまったようです。伝統が失われることは寂しいことですよね?
三浦先生
-
多少なりともアレンジがしてあるのは当然なんですよ。お雑煮には地域性に加え家族の歴史がつまっているからです。父方と母方のお雑煮がミックスされたり、好みが反映されたりしながら、その家のお雑煮が形成されていくので、お隣さんと比べても違いがあるはず。
我が家のお雑煮の成り立ちを調べてみると、いろいろなことがわかって面白いですよ。
そんなご家庭の味を大切になさってください。
鏡餅を大切に食べるためのかきもち
マイちゃん
- そもそも鏡餅にはどんな意味があるのでしょう?
三浦先生
-
鏡餅の「鏡」とは、文字通り顔を写す鏡、つまりミラーのことです。三種の神器のひとつである「八咫鏡(やたのかがみ)」はご神体として伊勢神宮に祀られており、神様がそこに宿っていると考えられています。
鏡餅は、その神様の依り代である鏡を丸餅で表したもの。年神様の魂が宿るのはそのためなんです。
マイちゃん
- 鏡餅ってとっても有り難い食べ物なんですね。
三浦先生
- そうなんです。「鏡開き」でその鏡餅を手や槌で欠き割ったものが「欠き餅(かきもち)」「御欠(おかき)」の由来だといわれています。大変有り難い食べ物ですから、小さな欠片も残さず食べるよう、欠片をかき集めて油で揚げたのがお馴染みの食べ方になりました。年神様の宿ったお餅で作られたかきもちというのは、とっても尊い米菓なんですよ。
マイちゃん
- そうなんですね。うーん、それを聞いたらなんだかかきもちが食べたくなってきた……。お正月まではまだ日があるし……ちょっとスーパーへ行ってこようかな。
三浦先生、ありがとうございました!
協力:三浦康子
三浦康子
和文化研究家
古を紐解きながら今の暮らしを楽しむ方法をテレビ、ラジオ、新聞、雑誌、Web、講演などで提案しており、「行事育」提唱者としても注目されている。連載、レギュラー多数。All About「暮らしの歳時記」、私の根っこプロジェクト「暮らし歳時記」などを立ち上げ、大学で教鞭もとっている。著書『子どもに伝えたい 春夏秋冬 和の行事を楽しむ絵本』(永岡書店)、監修書『おうち歳時記』(朝日新聞出版)ほか多数。